・『重耳』宮城谷昌光
・『介子推』宮城谷昌光
・『晏子』宮城谷昌光
・『子産』宮城谷昌光
・『湖底の城 呉越春秋』宮城谷昌光
・虚実
・『楽毅』宮城谷昌光
・『奇貨居くべし』宮城谷昌光
・『香乱記』宮城谷昌光
田文(でんぶん)は夏候章(かこうしょう)に会い、
「なにが人を狂わせるのだろう」
と、謎をかけるようなことをいった。
夏候章という読書ずきの少年は、すかさず、
「虚(きょ)です」
と、こたえた。謎にたいして謎でこたえたようなものである。
田文は夏候章をみつめた。説明を待つ表情である。
「虚に実(じつ)はないのに、実をそこにみようとするから、狂うのです」
【『孟嘗君』宮城谷昌光〈みやぎたに・まさみつ〉(講談社、1995年/講談社文庫、1998年)】
孟嘗君〈もうしょうくん〉=田文は戦国四君の一人。宮城谷作品の中で最も血湧き肉躍る作品で、『楽毅』(がっき)とセットで読むのが望ましい。私は二度読んでいるが飽きることがなかった。
虚とは地位・名誉・財産である。自分が欲している間は、それらを持つ人に頭が上がらない。尊敬の方向性が狂う。人間が抱く欲望は価値観をも規定してしまうのだ。
勲章・名誉称号の類いもまた虚である。「だから凄い」と言うのは社会の奴隷になっている証である。ブッダや日蓮がそんなものを望んだことは一度としてない。
真に偉大な人物は全てを失っても輝きを失うことはない。たとえ病んで斃(たお)れたとしても偉大である。
・自由と不自由
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