憲法改正の発議要件を緩和するための96条の先行改正をめぐり、公明党幹部が神経をとがらせている。今夏の参院選と、公明党が国政選挙並みに力を入れる東京都議選(6月23日投開票)に向けて明確に反対を打ち出したいが、自民党との連立に悪影響を及ぼす事態は避けたいところ。大型連休中は公明党支持者が知人を訪ねて選挙協力を頼む“交流期間”だけに、安倍晋三首相の理解を求め、水面下で政府高官に接触を図る動きもある。(力武崇樹、佐々木美恵)
4月30日午前10時過ぎ。党所属国会議員あてに「憲法記念日アピール」の文書が添付された一斉メールが届いた。文書は従来の「加憲」の立場を表明。「憲法は不磨の大典ではなく、憲法条文のどこをどう変えるのがふさわしいかの全体観に立った論議が必要不可欠だ」などと書かれていた。
ところが、6時間余り後の午後4時半過ぎに突然、文書の「差し替え」を知らせるメールが届いた。
「憲法は不磨の大典ではなく、改正要件の『3分の2』も含め憲法条文のどこを」と、改正発議の要件を定めた96条が強調されていた。党幹部は「差し替えは北側(一雄副代表)さんが命じた」と打ち明ける。
公明党は96条改正には慎重だ。支持母体の創価学会関係者の間には「96条改正は9条改正に結びつく」との不安が根強い。にもかかわらず、北側氏がわざわざアピール文を差し替えたのは「絶対反対の野党とは違い、議論の余地がある」(党幹部)という姿勢を首相や自民党に示すためだ。
山口那津男代表も27日、「中身によって固く守るべきものと、柔らかくしていいものとがあるかもしれない」と発言。96条改正の後、改正手続きを進められる条文を限定するなどの案にも言及し「(96条改正は)議論が熟していない」との牽制(けんせい)一辺倒から転換した。同時に、党幹部らは政府高官に水面下で接触し「首相サイドに理解を求めている」(党幹部)という。
参院選前に公明党と対立したくないのは、参院での多数与党を実現し、国会の「ねじれ」解消をめざす首相も同じ。首相は5月1日、訪問先のサウジアラビアで「(96条改正に)慎重な意見も承知しており、誠意を持って議論を進めたい」と一定の配慮を見せた。ただ、両党の憲法をめぐるスタンスは明らかに異なっており、当面の「休戦」は根本的な解決とはほど遠いのが実情だ。
【MSN産経ニュース 2013-05-03】