プライドを与えてやれ。そうすれば、人びとはパンと水だけで生き、自分たちの搾取者をたたえ、彼らのために死をも厭わないだろう。自己放棄とは一種の物々交換である。われわれは、人間の尊厳の感覚、判断力、道徳的・審美的感覚を、プライドと引き換えに放棄する。自由であることにプライドを感じれば、われわれは自由のために命を投げ出すだろう。指導者との一体化にプライドを見出だせば、ナポレオンやヒトラー、スターリンのような指導者に平身低頭し、彼のために死ぬ覚悟を決めるだろう。もし苦しみに栄誉があるならば、われわれは、隠された財宝を探すように殉教への道を探求するだろう。
【『魂の錬金術 エリック・ホッファー全アフォリズム集』エリック・ホッファー:中本義彦訳(作品社、2003年)】
マズローの欲求段階説を撃つ言葉だ。学校も企業も教団も同じ力学で動いていることがよくわかる。「情熱」を促す仕組みもここにあるのだろう。社会を支配するのは成功の物語である。そして万人に競争を促す。勝ち負けが不安を煽り、落伍の恐怖を漂わせる。エリック・ホッファーは独学で大学教授にまでなったが、沖仲仕の仕事もやめなかった人物として広く知られる。彼こそは真のアウトサイダーであった。