古谷さんなの? 「そうですよ」。マジ? 「うん、マジ」。
私は笑った。久し振りに追悼文を読んだせいだろう。自転車のペダルを踏む足に力を込めた。
「小野さん、ダメですよ……」。何が? 「わかっていますよ……」。
思わず自転車を止めて月を見上げた。
知ってんの? 「全部わかってますよ……」。ああ、そう。「ダメですからね……」。
うん、わかった。もう引っ込んでいいよ。「その節はありがとうございました。葬儀の手配までしてもらって……」。よしなよ、と言って私は涙ぐんだ。
再びサドルをまたいだ。その後も私を見守るように月が顔を出した。
実はある悪党を懲らしめるために実力行使を目論んでいるところだった。一旦やると決めたら、とことんまでやるのが私の流儀だ。社会のルールや法律を私はさほど重要視していない。
計画は頓挫した。恐るべきタイミングであった。
昨年も同じようなことがあった。やはり満月の2~3日前だった。冬の月が私を照らす。
・気がつけば月の光