伊藤祐靖●我が日本国政府は、自国民が「あいつに連れ去られた」ということを具体的に公表して久しい。これは「可能性がある」等のあいまいなことではなく、「連れ去られた」と、一国が世界に公表している非常に重大な事です。それなのに、いまだ穏やかな話し合いしか続いていない。ここまで国民の尊厳と国家の威信を蔑められておいて、なおかつ何を守りたいのか、非常に疑問に思っております。
仮に、誰か知らない人が自分の家に入ってきて、家族が連れ去られたとします。「どうしたら返してくれる?」などという話し合いはしません。相手に勝てようが勝てまいが関係ない、実力で取り返しに行くと思うんですけれども、我が国はそれをいまだしていない。しない理由は一体どこにあるのか。
荒谷卓●まず救出の問題です。これは一般的な邦人救出問題とも関わってきます。戦後の憲法下、政府は国外における自衛隊の実力行使は許されない、という立場をとっております。したがって現憲法下においては、自衛隊が実力をもって北朝鮮の領土から拉致被害者を救出するということは許されない。仮に国民が、強制力をもってしても拉致被害者救出を成し遂げたいと思っているのであれば、憲法改正は必須条件です。憲法上の制約があるからこれ以上の手が打てない、打つには憲法を変える以外ないのだと、明確に国民に説明する必要があるでしょう。
【『月刊正論』 2015年2月号】
荒木和博は特定失踪者問題調査会代表で元民社党本部書記局員。民社党はなくなったが民社協会はまだ健在だ。