2019-02-11

三島由紀夫の仏教理解

 本を読み続けてゆくと時に大きなうねりの中で身を流されるような感覚に陥ることがある。私の場合は特に40代から顕著となり、振り返るとルワンダ大虐殺→クリシュナムルティ→竹山道雄(→山口洋一→岡崎久彦)を経て現在は三島由紀夫に至る。この間、日本近代史の関連書を100冊以上読んできたが天皇と日本、明治維新の混乱と変節、コミンテルンの謀略、大東亜戦争の実相を知る上で竹山→三島という流れは心にしっくり来るものがあった。

 三島は畢生(ひっせい)の大作『豊饒の海』シリーズ第四巻の最終稿を脱稿し、その日のうちにクーデターを画策し、切腹して果てた。享年45歳。戸田城聖が獄中で悟達した年齢と近い(戸田の45歳というのは数え年)。当時の新聞には介錯(かいしゃく)された生首が写っていた。

 私が興味を抱いたのは三島の時流に与(くみ)しない精神と精確な国防意識である。彼の小説作品を読もうとは最初から思っていなかった。ところが、である。『豊饒の海』では唯識論がモチーフ(※厳密な意味での主題は天皇批判である)になっており、流麗な筆致で卓越した仏教理解を示している。

 私はまだ部分的にしか読んでいないのだが、小説『人間革命』との比較は研究に値すると思う。『人間革命』はゴーストライターが総花的に日蓮理論を散りばめている程度の代物であることが浮かび上がる。

 天才の直観はたちどころに真実を見抜き、難解な教えをも自家薬籠中の物とする。仏教内部で唯識に対する批判もあるが、西洋の深層心理学に2000年以上も先駆けた思考の深さを軽々しく批判することはできない。

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