2015-10-19

新安保法制で何も変わらず、「有事の時、もう一度仕切り直しとなる」=外務省主流派は米国一辺倒―作家・佐藤優氏が講演(1/3)

 2015年10月14日、作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏が「最近の日本外交」と題して、時事通信ホールで講演(新聞通信調査会主催)した。9月に成立した安保法制について、何も変わっておらず、明日戦争になるというのも嘘、安保法案で切れ目がない形で日本の安全保障が強化されたというのも嘘である、と指摘。「有事の時はもう一度仕切り直しとなる」と強調した。また、外務省の主流派は国体(天皇制)護持には日米安保の強化が最優先と考えている、との見方を示した。発言要旨は次の通り。



 私は外務省にいたからよく分かるが、外務官僚は第2次大戦の日本軍の暴走で国体(天皇制)が危機的状況に陥った時に、国体をギリギリで守ったという意識が強い。外務省こそが国対に近く、戦後の国体は日米同盟によって維持されているという考え方につながっている。日米同盟によって日本の安全保障が担保されなくなれば共産革命が起きて共和制になり、国体は破壊されるとの考えが強い。米英で留学して条約局、国際法局で勤務した官僚が外務省で主流となるのは、我こそは国体に最も近いという人たちだ。

 そう考えるとなぜ宮内庁に外務官僚出身者が多いのかよく分かる。戦後マッカーサーら米国関係者によって創設された国際基督教大学で学ぶ皇室関係者が多いのも国体と関係している。「本当に北方領土問題を解決するつもりなのか?もしこれで北方領土問題が解決したら、ロシアとの関係が強まり日米同盟に影響を与える。そこのところ分かっているのか」と外務省幹部から言われたことがあるほどだ。

 昨年7月1日の集団的自衛権の行使を容認する閣議決定は公明党と創価学会にしてやられたと外務省の主流は思っている。国連関連など国際法が憲法など国内法に優越するという一元論をとっており、絶対にあきらめない。

 従来、集団的自衛権はやらないということになっていたので、個別的自衛権だとか言って、インド洋での給油とか、イラクへの派兵とか事実上、集団的自衛権はやっていた。ところが昨年7月1日の閣議決定で制限が付きやりにくくなった。ホルムズ海峡の機雷の除去を、一時はやると言っていたが、できない。ホルムズ海峡の国際航路というのは、実はオマーンの飛び地の領海を通っている。国際航路を封鎖するためには、オマーンの領海に機雷を置かなければならない。国際法上、ある国の領海に機雷を置いたら、その国に参戦布告するということになる。オマーンへの戦闘行為になる。

 日本は戦闘行為をやっているところに直接、自衛隊を送ることはしないことになっているから、ホルムズ海峡には自衛隊は送れない。とどめを刺したのは国会の委員会質疑。「理論的にはホルムズ海峡の地雷除去できるか」と山口公明党代表から問われ、「ホルムズ海峡への自衛隊派遣」という持論を撤回している。

 9月に成立した安保法制は、「拳銃のふた」を外したぐらいで、何も変わっておらず、有事の時はもう一度仕切り直しとなる。明日戦争になるというのも嘘、安保法案で切れ目がない形で日本の安全保障が強化されたというのも嘘である。安保法制は自民党と公明党の自己矛盾の結果といえる。

RecordChina 2015-10-18