司会者●それはどのような原理なのでしょう?
科学主義者●人間の観測には、超えられない限界があるという原理です。
私たちが何かを観測する時には、対象から跳ね返ってくる光を見ているわけです。たとえば、今私はあなたの顔を見ていますが、それは、あなたの顔を反射した光が私の網膜上に映り、その像が視覚神経系を伝わって脳に伝達されることによって、そのような認識が生じているわけです。
(中略)
科学主義者●それでは、ミクロの世界を観測するにはどうすればよいか、考えてみてください。そのためには、ミクロの対象に光を当てなければなりません。光は電磁波の一種ですから、ミクロの対象の位置を精密に測定したければ、対象が一回の波の振動に埋もれないように、短い波長の光を使う必要があります。ところが、光は波長が短くなればなるほど、振動数が高くなり、エネルギーが高くなるため、対象の位置を乱してしまうのです。
たとえば、電子の「位置」を測定したいとします。波長の短いX線のような電磁波を電子に当てると、X線がある方向に跳ね返ってくるので、その方向を逆算して電子の位置がわかります。ところが波長の短い電磁波のエネルギーは高いので、電子のほうも動かされてしまうことになり、電子が最初に持っていた「運動量」に影響を与えてしまうのです。
一方、電子の運動量に影響を与えないためには、波長の長い電磁波を使えばよいのですが、今度は波長が長すぎることによって、電子の位置を正確につかめなくなります。
【『理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性』高橋昌一郎〈たかはし・しょういちろう〉(講談社現代新書、2008年)】
・『理性の限界』
・不確定性原理
・「囚人のジレンマ」には2種類の合理性が考えられる/『理性の限界 不可能性・不確定性・不完全性』高橋昌一郎