2019-03-01

三島由紀夫と永山則夫

永山則夫

 ・三島由紀夫と永山則夫

親子関係を通して形成される業

 その日、永山則夫〈ながやま・のりお〉は「日本人民を覚醒させる目的で以(もっ)て、天皇一家をテロルで抹殺しろ!」と東京地裁の法廷で叫んだ。永山は審理中に左翼理論を学び、徹底して無罪を訴える。4人もの人々を射殺した犯罪者が生き永らえて、天皇中心の日本を再建しようとした三島が死ぬ不思議に思いを致さざるを得ない。

日本近代史にピリオドを打った三島の自決/『昭和45年11月25日 三島由紀夫自決、日本が受けた衝撃』中川右介

 自分で書いた文章を確認するために堀川惠子著『永山則夫 封印された鑑定記録』(岩波書店、2013年/講談社文庫、2017年)を読んだ。開くなり文章のよさに驚いた。「読む快感」といってよいほどの文章である。更に行間から抑制された感情がにじみ出てくる。それが私情に傾いていない。二度目の精神鑑定を行った石川義博がもう一人の主人公だ。278日を要して180ページを越す分量の鑑定書を作成した。異例中の異例といってよい。この鑑定書が採用されて二審では無期懲役の判決が下った。

 石川が実は永山との対話をずっと録音し続けていた。石川はもともと犯罪心理学のエースともいうべき存在であったが、永山の死刑が確定すると八王子で町医者に転じた。それ以降一切の精神鑑定を拒んだ。録音テープでは『無知の涙』には書かれていない幼少期からの悲惨な苦悩が赤裸々に語られていた。

増補新版 永山則夫 (文藝別冊/KAWADE夢ムック)

 永山といえばこの顔写真が思い浮かぶが実は精神鑑定を終えた直後に撮影された。石川医師が密かに撮ったものだ。

 思うことは多いが、私にとって意味が大きかったのは「家族そのものが業である」という事実であった。誰かが悪いわけではなかった。そして誰もが悪かった。運命の糸がマイナスに引っ張られた時、恐るべき惨劇が起こることを永山は証明した。彼の話に耳を傾ける「たった一人」の人が存在しなかった。

 三島由紀夫と永山則夫は正反対に位置しながらも、「犠牲」という生き方を選んだ点は共通している。

永山則夫 封印された鑑定記録 (講談社文庫)
堀川 惠子
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