・口先だけの革命の本質は反革命
・美しい物語に隠された嘘
「あの店はあなた方、外国同志達のためにあるのです。私もあの店の洋菓子がおいしいことを知っています。でも今は食べません。もう少ししたら、我々は今の困難(100年振りの大災害による食糧不足)を克服して6億人民全部がいつでも好きなだけ、おいしい菓子を食べられるようになります。そうしたら食べます。その時は、おいしい菓子が一段とおいしく感じられるでしょうから、その時までとっておきますよ」
と言って笑った。彼はその日、中国の笑い話やことわざについて色々と話してくれ、僕達を腹の皮がよじれるほど笑わして帰っていった。しかし、彼の前に出されたシュークリームはそのまま残っていた。僕達一家4人は、同じように手をつけなかった菓子を前に、妙に白けた気持ちになった。僕は苦いものを飲み込むようにそれを食べた。少しもおいしくなかった。
【『青春の北京 北京留学の十年』西園寺一晃〈さいおんじ・かずてる〉(中央公論社、1971年)】
昭和40年代以前に入会した学会員の家には「必ず」と言ってよいほど書棚に並んでいる一冊である。一般書の少ない我が家の本棚にもあった。私は二十歳前後で読んでいたく感激した覚えがある。西園寺一晃は国交回復前の中国で思春期を過ごした。その後、阿部vs.池田紛争や日中友好に関する記事で聖教新聞に登場した時は「あの西園寺か!」と驚いたものだ。
ピンポン外交が日中友好に果たした影響は大きい(周恩来の動画を参照のこと)。後藤鉀二〈ごとう・こうじ〉日本卓球協会会長(アジア卓球連盟会長、愛知工業大学学長でもあった)をバックアップしたのが一晃の父・公一〈きんかず〉であった。戦時中に西園寺公と呼ばれた公望〈きんもち〉の孫に当たる。
公一はマルクス主義者で中国のスパイであった。 過去にはゾルゲ事件に連座して公爵家廃嫡となっっている。果たしてスパイの子もまたスパイとなるのであろうか? なる、と私は考える。なぜなら共産主義・社会主義勢力の息が掛かったスパイは、職業(公務員)スパイと異なり国益ではなく思想に基づく行動であるからだ。
35年前に私がノートに記したテキストを今読むと全く異なる風が胸の中を吹く。「100年振りの大災害による食糧不足」との括弧書きこそ左翼の真骨頂を示している。無論、若い私には知る由もなかった。今なら、ちょっと検索しただけで誰でも知り得る程度の低い嘘である。
「大災害」と書いてあるが実際は毛沢東による失政(大躍進政策)が直接的な原因だ。更に「食糧不足」と極めて控え目な表現をしているが、この時2000~4000万人の中国人が餓死しているのだ。毛沢東は人類史上においてスターリンに次ぐ大虐殺者とされるが、これは餓死者数を含んでいるためだ。
正義を信ずる者は目的のために嘘をつく。マクドナルドで正義を注文すればセットメニューで欺瞞を勧められることだろう。美しい物語に隠された嘘を見抜け。
青春の北京―北京留学の十年 (1971年)
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西園寺 一晃
中央公論社
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