2017-08-12

天皇制を巡るイデオロギー

 私が保守に転じた経緯を記しておこう。導火線となったのは藤原正彦のエッセイ2冊と小野田寛郎〈おのだ・ひろお〉の『たった一人の30年戦争』であった。ただし深い余韻は残ったものの、創価学会が主張する国際主義を払拭するほどではなかった。

 私に決定的な影響を与えたのはシンペー兄のツイートだ。正直に白状しよう。東日本大震災直後に天皇陛下がビデオメッセージを発表された(2011年3月16日)。私は「おことば」を見ても聞いてもいなかった。シンペー兄が「陛下」という敬称をつけ、感動を綴っていた。私は慌てて動画を探した。

 日教組が強い北海道で育った私は天皇に対して何の興味も関心もなかった。上京して天皇ご一家のカレンダーを掲げてあるお宅を知り、不気味に思ったほどである。ところがどうだ。ビデオメッセージを見て私の心はガラリとひっくり返った。あの淡々としたお姿には一切の虚飾がなかった。国民感情を煽るような姿勢もなかった。1000年を超える伝統とはかくも凄まじいものかと思い知った。

 それから日本の近代史に関する書籍を100冊以上読み漁った。日本国が成立する前から天皇制は存在した。つまり「始めに天皇ありき」なのだ。ここが諸外国とは決定的に異なる歴史である。また日本が世界で最も古い歴史を有するのは、西洋のような厳しい階級がなく天皇陛下のもとに平等という一君万民思想があったためだ。革命も国家転覆もなし得なかったのはひとえに天皇陛下の存在の大きさを示すものだ。

 日本の政治思想は天皇制を巡るイデオロギーで二分できる。すなわち親天皇か反天皇かである。そして反天皇には2種類ある。一つは左翼、もう一つは合理主義としての共和政および国際主義支持者である。参考までに紹介すると小室直樹と藤原肇(『脱ニッポン型思考のすすめ』)は恐るべき知性の持ち主であるが、小室が親天皇で藤原は反天皇(共和政支持者)と分かれている。

 もちろん思想・信条は自由だ。しかしながら天皇制を否定すれば日本の歴史そのものを否定することになる。明治維新は開国派と攘夷派の戦争であったがどちらも尊皇を掲げていた事実を見落としてはなるまい。

 戦争に勝ったアメリカは敗戦国日本を心底恐れた。そして二度と立ち上がることができないように破壊工作を行った。手段を選ばぬ占領軍は共産党員を獄から放った。NHKラジオでは日本軍の残虐非道ぶりを繰り返し放送した(「眞相はかうだ」)。ルーズベルト大統領周辺はソ連のスパイだらけだった。またGHQにもニューディーラーと呼ばれる左翼が巣食っていた。日本は平和と経済成長の中でぬくぬくと眠り続けた。

 それから66年を経て未曾有の災害でやっと一部の人々が目覚めた。

 政党政治を機能させるためにも天皇制に対する姿勢を政治家一人ひとりが鮮明にするべきだ。

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