2016-01-23

左翼に関する覚え書き

・左翼に関する覚え書き
世界市民と国連中心主義

 かつて知識人とは左翼を意味した。1960~80年代のこと。それに先行してGHQが日本の教科書から民族性の魂を抜き去った。マッカーサーは共産党員を獄から解き放ち、組合運動を支援した。民政局にはニューディーラーが参集していた。後に判明するがハル・ノートを作成したハリー・デクスター・ホワイトはソ連のスパイだった。

 日本共産党はもともとコミンテルンの日本支部として作られた(菅沼光弘、須田慎一郎『日本最後のスパイからの遺言』2010年)。32年テーゼ二段階革命論で左翼は絶対主義天皇制を打倒するためのブルジョア民主主義革命を目標とした。そもそも天皇制という言葉自体が左翼用語で、天皇制打倒に関する最初の指示があったのは1923年(大正12年)であった。

 伊藤博文は西洋のキリスト教に代わる価値観として天皇陛下を国体の中心に据えた。これによって日本は立憲主義と中央集権が可能となった。かつて天皇が利用された歴史もあったが、江戸期の日本人は天皇陛下を尊敬していた。

 左翼の運動はプロパガンダ(宣伝工作)を表に破壊活動を行う。彼らは戦前の一切を否定する。戦後、多くの知識人がこれになびいた。後に進歩的文化人と呼称される連中は日本を徹底的に貶(おとし)め、ソ連・中国・北朝鮮を礼賛した。この流れは1990年前後まで続く。先日亡くなった土井たか子は「北朝鮮による拉致被害は産経新聞の捏造」と言い続け、更には被害者家族の情報を北朝鮮に報告した。

 真性左翼知識人の影響を受けた人々は「平和・人権・平等」といった価値観に染め上げられた。個人を重んじることで国家は軽んじられた。これがGHQ主導による戦後教育の中心軸である。アメリカは「強い日本」を心の底から恐れた。だから骨抜きにする必要があった。

「残存左翼」に操られやすいのが「うす甘いサヨクの市民グループ」であり、その周辺にいる「うす甘い戦後民主主義の国民」を十把一絡(じっぱひとから)げにして「サヨク」と命名したのが小林よしのりであった(『新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論』1998年)。私はこれを「心情左翼」と表現している。明確な意識を欠いたまま彼らは天皇制打倒に収斂(しゅうれん)されてしまう。




 左翼のプロパガンダとしてわかりやすい例を挙げよう。米原万里〈よねはら・まり〉の遺著となった『打ちのめされるようなすごい本』(文藝春秋、2006年)は優れた書評本で傑作といってよい。しかし、である。なんと『お笑い創価学会 信じる者は救われない 池田大作って、そんなにエライ?』(佐高信、テリー伊東、光文社、2000年)を「意外に真面目な本だ」(文庫、227頁)と評価している。米原ファンでなくても理解に苦しむ部分だ。何も知らない人であれば佐高・テリー本に手を伸ばすことだろう。

 米原万里は本物の左翼であった。父親の〈いたる〉は共産党の代議士で、妹の夫は井上ひさしである。正真正銘の共産党ファミリーといってよい。米原は井上と組んで反米言論活動も行ってきた。

「ただの批判」ではないところに注意を要する。彼らの言論活動は共産主義革命に誘導する目的が隠されているのだ。

 その左翼が1960年代の創価学会にシンパシー(共感)を抱いた(鶴見俊輔、森秀人、柳田邦夫、しまねきよし『折伏 創価学会の思想と行動』産報ノンフィクション、1963年)。ここに池田創価学会を解く一つの鍵があるように思う。

 牧口と戸田は民族主義であった。「教育勅語は最低の道徳である」との牧口発言に創価学会員の多くは批判的意図を読み取るが、道徳として容認している事実を見落としている。

教育ニ関スル勅語
教育勅語の口語文訳

 特高の取り調べに対して牧口は「天皇陛下も凡夫であつて……天皇陛下も間違ひも無いではない」と応じているが、これまた「陛下」という尊称を見逃してはなるまい。戸田も「青年は国士たれ」と叫んだ。

 一方、池田創価学会は国際主義に向かった。と同時に反権力・反国家的姿勢が強まる。そこに左翼は共感したのだろう。1990年代から目立ち始めた牧口研究は創価学会の平和主義を標榜する一種のプロパガンダであり、事実検証からは遠い位置にあると判断せざるを得ない。

 馬渕睦夫〈まぶち・むつお〉が『国難の正体 日本が生き残るための「世界史」』(総和社、2012年)でニューヨークの金融資本と共産主義を「国際主義」というキーワードで解き明かしている。ユダヤ人の脱国家思想が国際へと向かうというのだ。ソ連を建国したのもユダヤ人であった(元ソ連外交官が語る「ロシア-ユダヤ闘争史」の全貌)。

 最近読んだものの中で『創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史 』(輪島祐介、光文社新書、2010年)が実に面白かったのだが、音楽に与えた左翼の影響まで描き切っている。

聞書 庶民烈伝』(潮出版社、1983年)の著者として創価学会員に知られる竹中労〈たけなか・ろう〉はアナーキストと称しているが、実態は左翼よりも過激な新左翼である。