2018-10-27

ルネサンスの実態

 ルネサンスといえば、読者はすぐ華やかな芸術と文芸の花が咲いた絢爛(けんらん)とした文化の世界を思いだされるかもしれない。だが、この時代は同時にすさまじい勢いで上昇してきた新興市民層の力によって、古い社会が動揺し、混乱し、崩壊しかかった混沌(カオス)の世界である。人殺しと内乱と戦争が、これまたすさまじいまでにくりひろげられた地獄図絵の世界である。ただこの地獄が、おそろしく生気に満ちていた、という点だけは注意する必要がある。

【『敗者の条件』会田雄次〈あいだ・ゆうじ〉(中公新書、1965年『敗者の条件 戦国時代を考える』/中公文庫、1983年)】

 聖地(エルサレム)奪還を目指した十字軍は200年(11~13世紀)にわたり7回の遠征を行ったが結果的にカトリック諸国は敗れた。学問的にも文化的にも遅れていたヨーロッパはアラブ世界から知識を輸入する。これがルネサンスの原動力となった。笑い話のようだがヨーロッパはギリシャ文化もアラブから学んだのだ。

 ルネサンスを神の束縛から人間を解放したと捉えるのは飽くまでもヨーロッパ人の史観であって、日本から見れば16世紀の宗教改革以降も魔女狩りは盛んに行われていたわけで、殺戮(さつりく)の歴史に他ならない。かような歴史をありがたがって持ち上げる方がどうかしている。

 そもそも日本には奴隷も存在したことがなかったし、国内の戦争における死者も高々数万単位である。平安時代(794-1185年)には死刑も廃止している。我々がヨーロッパを仰ぐ必要はない。むしろヨーロッパこそ日本に学ぶべきなのだ。

 選民思想はユダヤ教に始まるが、白人優越意識が芽生えたのはルネサンス期であった。ヨーロッパではなかったことにされているがルネサンス以前は白人奴隷が存在した。ロシアや東欧の人々をスラブ系というが、これはスレイブ(奴隷)の名残(なご)りである。

 十字軍によって生まれた覇権意識はルネサンスを経て大航海時代となって花開く。有色人種にとっては暗黒の時代である。白人は先住民がいるにもかかわらず「新世界」と呼称し、虐殺の限りを尽くし、生き残った者は奴隷にし、彼(か)の地を植民地とした。

敗者の条件 (中公文庫)
会田 雄次
中央公論新社
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