2015-07-20

トインビー・池田対談について

 トインビーと池田の出会いについて創価学会では松下幸之助と若泉敬〈わかいずみ・けい〉の名前を挙げている。

EIKOの気まぐれ闘病日記

 記事の出典は『民衆こそ王者 池田大作とその時代I 「人間革命の奔流」篇』(「池田大作とその時代」編纂委員会編、潮出版社、2011年)か。

 トインビーにとっては若泉敬からの紹介が大きかったようだ。

やはり若泉氏の紹介だったトインビー・池田対談

 なんと、新人間革命では上の下線部分つまり「私の親友・若泉敬教授から(あなたについて多くのことを伺いました)」というフレーズを隠して翻訳していたのだ。ピンク色部分は以前の記事で書いた通り、「読むつもりです」を「読みました」と改ざんした箇所だ。イギリスSGIの機関紙に転載された英文手紙でも下線部分は省略されていた。(上記記事)

 同ブログに「21世紀への棒読み対話? トインビー・池田対談の不可思議」との記事もあるが、やや牽強付会で対談集編纂では特に珍しいことではあるまい。

 若泉敬は京都産業大学の教授で、佐藤栄作首相の密使として米国と沖縄返還の交渉をした人物である(『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』『沖縄返還の代償 核と基地 密使・若泉敬の苦悩』)。池田に先立ってトインビーとの対談集『未来を生きる』を刊行(毎日新聞社、1971年)。『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』の英訳原稿を完成させたその日、沖縄核密約の責任を取るために服毒自殺を遂げた(Wikipedia)。1996年のこと。享年67歳であった。日本最後の武士道か。

 トインビー・若泉対談は若泉の質問にトインビーが答える体裁となっていて、内容的には池田対談に軍配が上がる。ただしテーマ設定はそっくり若泉対談を踏襲しているように見える。

 トインビー・池田対談に関する最大の不思議は、あれほどの内容でありながらテキストとして引用されることが殆どない事実である。例外としては、佐藤優著『地球時代の哲学 池田・トインビー対談を読み解く』(潮出版社、2014年)があるが、創価学会員向けの内容で付け焼き刃の謗(そし)りを免れない。そもそも対談の白眉といえる生命尊厳の件(くだり)について佐藤はまったく触れていない。

 池田の著作に学術的な価値を認めることが難しいのには理由がある。月刊ペン裁判において元教学部長の原島嵩〈はらしま・たかし〉が「特別書籍部」の存在を暴露し、池田の著作が別人による代作であったことを証言したのだ。原島によればトインビーへの書簡を書いたのは桐村泰次(元教学部長)とのこと。詳細は山崎正友著『法廷に立った池田大作 続「月刊ペン事件」』に書かれている。

 例えばカレル・ヴァン・ウォルフレンの著作は英語から日本語へ翻訳し、さらにそれを英訳したものを著者が確認するという流れで刊行されている。トインビー・池田対談の英訳と日本語版を比較検討する作業が必要だろう。

 でもまあ、学術的価値が損なわれるとしても同対談は創価学会員でなくとも一読の価値はある。「創価学会の知性」は侮れない証左といってよい。

 偶然、動画(※ソースはレコード)を見つけたので紹介する。尚、ネット情報は常に消失のリスクを伴うため、保存しておいた方がよい。

Offlibertyの使い方

 動画保存については上記ページを参照せよ。

二十一世紀への対話〈上〉 (聖教ワイド文庫)二十一世紀への対話〈中〉 (聖教ワイド文庫)二十一世紀への対話〈下〉 (聖教ワイド文庫)地球時代の哲学




二十一世紀への対話