2019-11-08

ハロー効果


 それは、ないと思う。そもそも高度経済成長期(1954-73年)にあって実際的な労使間のトラブルはさほどなかった。問題があるとすれば長時間労働くらいだろう。戦後の復興を経て「働けば豊かになれる」との実感は日本のGNPを世界第2位(1968年)にまで高めた。

 私がかつてこのテキストを読んだ時は「ケッ」という程度の感想しか持てなかった。当時は団塊の世代を中心とする終戦前後に生まれた連中の鬱屈した心理が暴力のハケ口を求めてやりたい放題をしでかしていた時代である。労働運動という潮流に目ざとく反応しただけのことだろう。

 尚、労働組合の実態については西岡研介の著書が詳しい。

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 池田はここでポンド切り下げを持ち出しているが実は何も語っていない。大英帝国の凋落は1870年代から始まり、スターリング・ポンドは第一次世界大戦後、基軸通貨の地位から転落する。日本の戦後復興は朝鮮特需(1950〈昭和25〉-55〈同30〉年)が火を点けたのだから外貨準備は新たな基軸通貨のドルであったことは言うまでもない。ポンド切り下げ(対米4.03ドルから2.80ドル)が及ぼす日本への影響はイギリスとの貿易実態を見なければ判断しようがない。また、もしも池田が本気でポンド切り下げと労組結成を考えていたのであれば、ニクソン・ショックでそれを実行しなかったのはどう考えてもおかしい。

 もう一つはイギリス病を指摘しておきながら小さな政府に言及していないのもトンチンカンだ。

 昔の月刊誌『潮』に登場する書き手は進歩的文化人が占めていた。もともと大衆運動という点で左翼と創価学会には親和性があるのだ。しかも運動性という点において創価学会が左翼を上回っていたことは石牟礼道子の証言からも明らかだ(『石牟礼道子対談集 魂の言葉を紡ぐ』)。彼女は左翼シンパである。デビュー作『苦海浄土』(1969年)は名著であるがフィクションが盛り込まれている。

 更に古くは鶴見俊輔、森秀人、柳田邦夫、しまねきよし著『折伏 創価学会の思想と行動』(1963年)で左翼諸氏が創価学会に秋波を送っている。

 私からすれば池田の発言は世情に阿(おもね)る姿勢を披瀝したもので新たな時代を開く宗教指導者の矜持(きょうじ)は感じられない。

 あらゆる教団が教祖に対するハロー効果で発展してゆくが、教祖亡き後に滅ぶのもまたハロー効果のためであろう。