「関龍逢」(かんりゅうほう)という名前にかすかな記憶があった。日蓮遺文で二度出てくる。因みに真蹟では「龍蓬」、創価学会版だと「竜蓬」(4ヶ所)との表記になっている。『天空の舟 小説・伊尹伝』は宮城谷昌光のメジャーデビュー作。弓を引き絞るような苦しい時期を経て、これ以降輝かしい作家人生が花開く。本書は伊尹(いいん)が主人公であるが、夏の桀王の物語でもある。酒池肉林で知られる殷(いん)の紂王(ちゅうおう)と並び立てられる悪王だ。紀元前17世紀頃の話である。日蓮はこうした中国の歴史を何から学んだのだろう? 『史記』や『竹書紀年』はたまた『荘子』あたりか。尚、三顧の礼は『三国志』で有名だが、実は湯王(とうおう)が伊尹のもとを訪れたのが嚆矢(こうし)である。日寛の『開目抄上愚記本』にも「『或は師とたのみ』とは、文王の太公望を得、湯王の伊尹を尋ねしが如し」とある。